今年最後のお勉強2

What's New in Obstetric Anesthesia? The 2011 Gerard W. Ostheimer Lecture

つづき。



産科的管理と合併症
帝王切開
Consortium on Safe Laborの調査 2002-2008 228668件の分娩(米国)
CS率 30.5%(1/3は反復CS)
TOLACの候補となる女性のうち28%しか試みられていない。TOLACを試行した妊婦の成功率は57%
難産dystociaおよびCPDを理由にCSになる女性の半数は頚管拡張6cmとなる以前にCSを施行されている
CS率の上昇は公衆衛生学的な問題となっている。CDCは2009年の出産の32.9%が帝王切開によるものと報告している。TOLACの試行は8%に減少している。CS率をさげる方策を模索中。
TOLAC率を上げる(子宮破裂などでの緊急CSに対応できる地域のネットワークの確立が必要不可欠)
あたらしい分娩曲線を使用して初回CSを避ける
ECDを区域麻酔を用いて施行する。

帝王切開後分娩試行(TOLAC=trial of labor after CS)
80年代、90年代はTOLACが多かったが、90年代半ばから減少。CSが増加。
子宮破裂の報告があったこと、ACOGやASAのガイドラインで緊急時の対応が明記されたことなどが原因?

2010年にはTOLACやVBACの安全性の論文が数本でた。
2010年3月NIHはTOLACは1回の既往帝切後妊娠において前回が低位横切開によるCSであればほとんどの女性にとって適切であるという見解を示した。
http://consensus.nih.gov/2010/images/vbac/vbac_statement.pdf

8月にACOGはVBACに関するPractice Bulletinをアップデートした。
ACOGはTOLAC候補となる特別なsubpopulationを同定した。すなわち、前2回の低位横切開によるCS, 双胎、 誘発分娩を行うもの、子宮に知られていない創のあるもの(古典的子宮切開でない場合)である。またPractice BulletinはTOLAC中の鎮痛についても言及し、以前は硬膜外麻酔は子宮破裂の発見を遅らせると懸念されていたが、現在ではTOLAC中の硬膜外鎮痛の安全性に問題なしとしている。
最終的な推奨は緊急事態の対応を説明しつつ、TOLACの決定は患者と医療者で理解を共有して行われるべき、としている。患者は2つの分娩様式(TOLACと反復CS)のリスクとベネフィットについてはもとより、病院の態勢(産科、麻酔科、新生児科やORスタッフの充実度など)について意思決定前に相談を受けるべきであるとしている。この推奨により臨床がどう変わるかは乞ご期待。
ACOG Practice Bulletin no. 115. Vaginal birth after previous cesarean delivery. Obstet Gynecol 2010;116:450–63

分娩の進行
Consortium on Safe Laborのデータによると、Zhangがactive laborは頚管が6cm≦開大しないとほとんどの女性で開始しないということを発見した。このことから、おおくの妊婦がactive laborに入る前にdystociaと診断されて不要なCSを受けている可能性が示唆される。
Zhang J, Troendle JF, Yancey MK. Reassessing the labor curve in nulliparous women. Am J Obstet Gynecol 2002;187:824–8
筆者らは初産婦と経産婦では6cmまでの頚管拡大速度はあまり変わらず、以後は経産婦の進行が早いとしている。この結果をもとに新たなパルトグラムを作成すれば分娩停止の診断でCSになる患者が減り、CS率が減少するのでは、としている。
問題点はデータには経腟分娩をした人のデータしか入っていない点と、妊婦が肥満かそうでないかで分けていない点(肥満妊婦は進行が一般に遅い)である。

外回転術の麻酔
骨盤位に対する外回転術における区域麻酔お使用についてのエビデンスは現時点では確立されていない。
Weinigerらはブピバカイン7.5mgによる脊麻が無麻酔や全身性オピオイド投与と比べ、CDEの成功率をあげるという仮説を経産婦で調査した。区域麻酔は回転成功率を上げ(87%vs58%, P=0.01)鎮痛効果もずっとよかった。
Weiniger CF, Ginosar Y, Elchalal U, Sela HY, Weissman C, Ezra Y. Randomized controlled trial of external cephalic version in term multiparae with or without spinal analgesia. Br J Anaesth 2010;
他のグループによる後方視的コホート研究では35wから36wの妊婦でECVを受けたもので硬膜外麻酔使用群(Th10感覚レベル)と非使用群を比較し、同様に硬膜外麻酔群で成功率が高い結果となった。
Yoshida M, Matsuda H, Kawakami Y, Hasegawa Y, Yoshinaga Y, Hayata E, Asai K, Kawashima A, Furuya K. Effectiveness of epidural anesthesia for external cephalic version (ECV). J Perinatol 2010;30:580–3 (防衛医大)
これらのデータは区域麻酔の有効性を示しているだけでなく、もともと対象の妊婦が成功率の高い群(経産婦で週数が早い)での結果であることを示している。

ECVにおける区域麻酔と無麻酔(または全身性の鎮痛薬の投与)を比較したRCTのメタアナリシスではブロックのdensityと回転成功率の用量依存性関係の可能性を示した。
Lavoie A, Guay J. Anesthetic dose neuraxial blockade increases the success rate of external fetal version: a meta-analysis. Can J Anaesth 2010;

4つの研究でより弱い「鎮痛」用量を使用したが成功率に差がなかった一方、より強い「麻酔」用量の使用は成功率の増加と関連があった。高い濃度のブロックのほうが筋弛緩や母体がリラックスすることで成功率が高くなる可能性がある。区域麻酔の使用がCS率をさげるかどうか、区域麻酔や全身性鎮痛薬の投与以外の費用対効果の高い方法があるかどうかが今後の課題。

産後出血(Postpartum hemorrahage; PPH)
カナダ、オーストラリア、USで増加。
2010年には2報、USのPPHに関する論部うが出ており、可能性のある因子を上げている。
いずれもNationwide Inpatient Sampleを使用している。
Callaghanらは1994年から2006年までのデータ10,481,197件の分娩について分析した。PIHが2.7%にあった。弛緩出血が全症例の出血原因の3/4を占めた。PPHはこの研究機関12年で26%増加していた。弛緩出血に伴うPPHは同様に増加しているが、弛緩終結以外の原因の比率は一定であった。出血の重症度は輸血を必要とするPPHが増加していることから、重くなっているようである。
Callaghan WM, Kuklina EV, Berg CJ. Trends in postpartum hemorrhage: United States, 1994–2006. Am J Obstet Gynecol 2010;202:353
人種・民族による母体死亡率の格差
PPHは米国において高血圧性疾患と感染とともに母体死亡原因の3大原因の一つである。Pregnancy Mortality Surveillanceは1986年からの妊娠関連死亡のデータを蓄積している。新しいデータによると米国での母体死亡原因がシフトしていることがわかる。Bergらは1998-2005のデータを解析し妊娠関連死亡が10万出生に対し14.5に増加していることを発見した。これはここ20年で最も高い値である。
Berg CJ, Callaghan WM, Syverson C, Henderson Z. Pregnancy-related mortality in the United States, 1998 to 2005. Obstet Gynecol 2010;116:1302–9
出血と妊娠高血圧による死亡率は減少しているが、医学的要因による母体死亡が増えている。7つの健康状態が現在同等に母体死亡率に関わっている。すなわち、出血、塞栓症、感染、妊娠高血圧、心筋症、心疾患、そして心疾患以外の医学的合併症である。なかでも心血管系疾患の増加が最も大きい。2006―2008年のUKにおける非直接性母体死亡原因は心血管系疾患であった。死亡率を減らすにはリスクの高い妊婦を早く同定し適切な治療を受けさせることである。

人種間での母体死亡率の格差をなくそうという試みがされているにもかかわらず、以前として進歩がない。アフリカ系アメリカ人女性は母体死亡率が白人女性の3-4倍である。人種・民族別データがその原因を究明すべく収集されている。
http://www.ama-assn.org/resources/doc/public-health/cehcd-redata.pdf

新生児蘇生
新生児蘇生に空気を用いるか酸素を用いるかは長年議論の的であった。最近のエビデンスでは空気での蘇生が酸素と同等もしくは酸素による障害のみならず小児期のがんの発生率を上げる点などで酸素を用いた場合より優れているとされている。しかし、なかなか酸素をガイドラインから外すことはできない。死亡率を3%減少させるには7000<の小児を助けねばならない。
Tarnow-Mordi WO. Room air or oxygen for asphyxiated babies? Lancet 1998;352:341–2
2010年にはAHAとERCが新生児蘇生のガイドラインをアップデートした。両方とも初めの蘇生には酸素より空気を用いることを推奨している。酸素を使用する場合には右手に(同脈管前)パルスオキシメーターを装着して酸素化を見ながら投与すべきである。また酸素と空気をブレンドしたものを使用するのは空気のみで酸素化が改善しない場合のみである。
Dawsonらは468名の満期産と早産の子供に対し、前向きコホート研究で出生後10分間のSpO2のレファレンスレンジを決めた。満期産児でもSpO2>90%となるのに8分かかることが重要である。早産児ではより長くかかる。このカーブが酸素療法の指標となる。




by runa123 | 2011-12-30 10:25 | お仕事


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